コラム
パッシブデザインとは?住宅に取り入れる方法や断熱材についても解説
2024.06.08
パッシブデザインとはどんなものなのか、アクティブデザインとの違いやメリット・デメリット、設計手法の取り入れ方について詳しく紹介します。また、パッシブデザインで使われる断熱材についても素材や選び方を解説します。
環境にやさしく、エネルギー効率が高いパッシブデザイン住宅ですが、実際にはどんな設計の住宅なのでしょうか。この記事ではパッシブデザインとは何か、アクティブデザインとの違いやメリット・デメリット、設計手法の取り入れ方について詳しく紹介します。
また、デザインを実現するうえで重要な役割を果たす断熱材について、素材の違いや選び方も解説します。これから家を建てることを検討されている方はもちろん、いずれ家を建てたいと思う方にも知っておいて損することのない情報ばかりです。ぜひ参考にしてみてください。
パッシブデザインとは
パッシブデザインとは、機械に頼らずに自然の力を利用する家づくりのことです。自然の力を取り入れることで、省エネルギーな家づくりの実現が可能です。
以下では、デザインについて詳しく知るために、自然環境の特性を活かした家づくりや、パッシブ(passive)という言葉の意味についても解説します。また、アクティブデザインとの違いについても紹介します。
自然環境の特性を活かした家づくり
自然環境の特性を活かした家づくりとは、建物がある場所の太陽光や太陽熱、風などの自然の力を活かして、室内を心地よくするための設計手法です。
自然環境の特性は、季節ごとで変わります。たとえば夏と冬では、太陽の巡る高さ(太陽高度)が違いますし、風の吹いてくる方向も夏と冬で変わります。
また、雨が多い地域や雪の多い地域など、自然環境の特性は地域によってもさまざまです。自然環境の特性を活かした家づくりを行うには、まず建物を建てる土地の自然環境の特性を正しく理解することが大切です。
季節ごとの特性を例に出すと夏場は、日差しを遮り、風通しをよくし、夜間の冷気を効果的に取り入れる工夫が必要になります。反対に冬場は、日差しを十分に室内に取り入れ、冷たい季節風を遮らなければいけません。日差しや風通しをバランスよく取り入れるためには、材料や間取り、庇や窓など設計上の工夫が必要になります。
そして、地域ごとの特性を知るには、日射量・日照時間・風向・風量などを、建物を建てる地域の気象庁の集計データから読み解きます。その結果からいかに室内環境をよくできるかを考えて、デザインするのが自然環境の特性を活かした家づくりの方法です。
パッシブ(passive)という言葉
パッシブ(passive)とは、直訳すると「受動的、受け身である」という意味です。
住宅だけに使われる言葉ではありませんが、家づくりでパッシブという言葉が使われる例では、家の中と外の空気の温度差を取り入れた温度差換気や、風圧の差を取り入れた風力換気をパッシブ換気と呼んでいます。この換気方法は、パッシブデザインのひとつです。
アクティブデザインとの違い
アクティブデザインは、パッシブデザインの反対語です。パッシブデザインは、自然環境の特性を活かして室内の環境を心地よくするためのデザインですが、対するアクティブデザインは冷暖房設備や照明器具、給湯器などの機械を取り入れて室内の環境を心地よくします。
どちらが優れているというわけではなく、両方を組み合わせて設計することで、より効果的に省エネやCO2削減を実現できます。
パッシブデザイン住宅のメリット
パッシブデザイン住宅のメリットは、主に次の3つが挙げられます。
- 快適な住み心地
- 光熱費の削減
- エコで地球環境に優しい
それぞれ詳しくみていきましょう。
快適な住み心地
パッシブデザイン住宅のメリットのひとつは、快適な住み心地です。高断熱で高気密なうえに、日射取得と遮蔽を行います。そのため、冬場は窓から太陽の熱をしっかりと取り入れて、暖房を使わなくても心地よく過ごしやすいです。
反対に夏場は庇で太陽光を防ぎ、窓から風を取り入れて室温の上昇を防ぎます。そのため、真夏や真冬であっても、冷暖房をほとんど使わず心地よく過ごせるのが大きなメリットです。
光熱費の削減
断熱性や気密性が低いと、冷暖房によって冷やしたり暖めたりした空気は外に漏れてしまうため、強めの冷暖房を長時間稼働させ続ける必要があります。しかし、断熱性・気密性に優れていれば、冷暖房が不要になる場合や、稼働させる時間が最小限で済むでしょう。
また、冬場は太陽の熱を取り入れることで室内を暖め、夏場は風がよく通る場所に窓をつけてよく風を通すことで室内を涼しくします。その結果、冷暖房を稼働する機会が減ります。ほかの住宅に比べて光熱費を削減できるというメリットがあります。
エコで地球環境に優しい
冷暖房を稼働させることがあまりないということは、消費エネルギーが少ないということです。近年では氷河の融解や干ばつなどにより、動物の生態系にも大きく影響するほど、地球温暖化問題が深刻化しています。そこで、少しでも消費エネルギーを減らし、CO2を削減することが世界規模の課題です。
冷暖房をあまり使わないで済むパッシブデザイン住宅は、エコで地球環境に優しい住宅です。このことは、近年の地球全体の問題から考えても大きなメリットといえるでしょう。
パッシブデザイン住宅のデメリット
パッシブデザイン住宅のデメリットには、主に次の4つが挙げられます。
- コストが高くなる
- 周辺環境によって左右される
- エリアによっては設備機器も必要になる
- 施工できない会社もある
それぞれ詳しくみていきましょう。
コストが高くなる
高断熱・高気密にしなければならず、実現するためには高品質な断熱材を使用したり、断熱材の厚みを増したりする必要があります。
また、自然の力を最大限に活かした設計で建てるために、窓や庇の素材や構造にコストがかかります。その結果、建築にかかるコストが高くなることがデメリットです。
ただし、初期費用が高くなっても、光熱費などのランニングコストが低いため、トータルで考えるとほかの住宅よりもコストは安くなると考えられています。
周辺環境によって左右される
太陽の光や熱、風の向きなどを活用して室内環境をよくする設計のため、性能を十分に発揮できるかは周辺環境によって左右されてしまうというデメリットがあります。
たとえば、隣の建物が影響したり、近くに高い建物が建っていたりすると太陽光を十分に取り入れられません。太陽光が取り入れにくい環境では、パッシブデザインの採用は難しくなるでしょう。パッシブデザイン住宅を建てたければ、適切な土地を選ぶことが大切です。
エリアによっては設備機器も必要になる
住宅を建てる場所の環境や広さによっては、設計手法だけで季節ごとの気温変動に対応できないケースがあります。
たとえば豪雪地では、太陽光や断熱性を高めるだけで心地よい室内環境を整えることは難しいです。その場合には、設備機器が必要な場合もあることを想定しておきましょう。
施工できない会社もある
パッシブデザイン住宅は、すべての住宅会社で施工できるわけではありません。なぜなら実現するには、高い技術力と豊富な知識が必要になるからです。
たとえば、パッシブデザインを実現するには、気密性能を示すC値を1.0以下にしなければいけません。しかし、気密測定を実施している会社はかなり少数です。また、C値を1.0以下にできる住宅会社もあまり多くありません。
さらに、気密性能をC値1.0以下にできる会社であっても、パッシブデザイン住宅を施工していない会社もあります。パッシブデザイン住宅を建てることを検討している場合、住宅会社を選ぶ際に建築事例をしっかりと確認しておきましょう。
パッシブデザインを住宅に取り入れるには?
パッシブデザインを住宅に取り入れるには、具体的にどうすればいいのでしょうか。代表的なものには、次の5つの設計手法があります。
- 日射熱利用暖房
- 日射の遮蔽
- 自然風の利用
- 昼光の利用
- 高気密・高断熱仕様にする
それぞれの設計手法を取り入れる方法について、詳しくみていきましょう。
日射熱利用暖房
日射熱利用暖房は、日射しを室内に取り入れて室内の温度を上昇させることで、寒い冬に暖房として機能させる方法です。日射熱利用暖房を機能させるには、土地ごとの日照シミュレーションを行います。
また、日射取得性能を表す数値に対して、具体的な目標を設定してから設計します。
日射の遮蔽
日射の遮蔽とは、夏場の太陽光を遮る設計をいいます。日射遮蔽を取り入れることで、日射しが室内に入らないため、外気温の高い真夏でも室温の上昇を抑えられます。
日射の遮蔽をするには、設計段階から庇や軒などを取り入れ、窓から日射しが入るのを防ぐデザインにしなければいけません。
自然風の利用
自然風の利用は、風の通り道を考慮して、天窓や吹き抜け、建物のサッシの配置や大きさを決めていきます。自然風を上手に取り入れられれば、春秋はエアコンなしでも心地よく過ごせるため、エアコンの風が苦手な人にとくに好まれるデザインです。
昼光の利用
昼光利用は、昼間に照明をつけなくても室内で心地よく生活できる明るさを保てる設計です。吹き抜けや高窓から自然光を取り込む方法や、室内の壁を透明もしくは半透明のガラスにして光が入るデザインにするなどの方法があります。
高気密・高断熱仕様にする
高気密・高断熱仕様にすると、室内の温度変化を緩和できるため、パッシブデザイン住宅では最も重要な仕様です。高気密・高断熱仕様にできれば、冬に太陽光から得た熱を逃がさず、外気の冷たい空気が入らないため心地よい室温を保てます。
また、夏場も高気密仕様なら外気の熱を室内に入れることがないため、室温が上がらず心地よく過ごせるでしょう。断熱性を高めるには、一般的に建物の屋根や壁に断熱材を使います。また、気密性を高めるには高度な建築技術で建物の隙間を減らさなければいけません。
高気密・高断熱仕様はどちらも実現するのに高度な建築技術が必要ですが、実現できれば建物全体を一定の温度に保てるため、家じゅうどこにいても心地よく過ごせます。
断熱材とその役割
パッシブデザイン住宅を建てるうえで、断熱材は欠かせません。では、具体的にはどのような断熱材が使用されているのでしょうか。また、どんな役割があるのでしょうか。以下では、断念材とは何か、断熱材の持つ役割について詳しく紹介します。
断熱材とは?
断熱材とは、屋内と屋外の熱が行き来するのを防ぐための材料です。外皮平均熱貫流率(UA値)で表され、数値が低いものほど断熱性能が高くなります。断熱材は、家の構造ごと覆う工法と、天井や床の隙間や、壁のなかを埋めていく工法があります。
住宅の寿命を延ばす
断熱材には、住宅の寿命を延ばす役割があります。日本は湿度が高く、季節の温度変化が激しいため結露が発生しやすいです。結露で建材や外壁が腐食されてしまうことがあり、これが世界的にみて日本の住宅の寿命は短いと言われる原因のひとつです。
断熱材を使うことで、家の外と中の温度差を最小限に抑えられるため、結露が発生しにくくなり、住宅の寿命を延ばせます。
冷暖房費を削減できる
断熱材によって、室内の温度が外気温から影響を受けるのを防ぎます。そのため、夏場は涼しく、冬場は暖かい室温を保てるため、冷暖房費を削減できるでしょう。
また、冷暖房機器を使用する機会も減らせるため、冷暖房機器の寿命を延ばし、買い替える頻度を減らして冷暖房機器にかかる支出も削減できます。
部屋の空気を綺麗に保てる
断熱材は家の中と外の空気の熱を遮りますが、空気自体を遮ることはありません。人間の皮膚のように呼吸をして、家の中と外の空気が入れ替わるようにできています。常に換気されているため、部屋の空気を綺麗に保ってくれていつでも心地よく過ごせます。
断熱材を選ぶ基準は?
断熱材を選ぶときには次の3つを基準に選ぶとよいでしょう。
- 断熱性能
- 断熱材の燃えにくさ
- 有毒ガスが発生するかどうか
それぞれ詳しくみていきましょう。
断熱性能
断熱材を選ぶ基準として重要なのが断熱性能です。発泡プラスチック系断熱材は、熱伝導率が低く、その次に低いのがロックウールやグラスウールなどの無機質繊維系断熱材になります。熱伝導率が低いほど断熱性能が高くなりますが、素材の厚みによっても変わります。
断熱材の燃えにくさ
断熱材には可燃性のものと、不燃性のものがあります。可燃性か不燃性かで火災が起こったときの安全性が大きく変わるため、燃えにくい断熱性を選ぶことが大切です。
グラスウールやロックウールなどの無機繊維系断熱材は、ガラスや岩が原料のため燃えにくい特性があります。一方、発泡プラスチック系断熱材の押出発泡ポリスチレンや、ビーズ法ポリスチレンなどは熱に弱く、燃えやすいのが弱点です。
有毒ガスが発生するかどうか
万が一火災が発生し、断熱材が燃えてしまったときに、有毒ガスが発生しないかも断熱材を選ぶ大切な基準になります。また、隣家で火災が発生した場合も外壁は800℃以上の高温にさらされるため、一定温度以上になると有毒ガスが発生する断熱材を使っていると危険です。
有毒なシアン系ガスや猛烈な発煙が出ないグラスウールやロックウールは、万が一火災が発生したときに避難時の安全が確保できる断熱材になります。
こちらの記事では、高気密・高断熱住宅のメリットや注意点を解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
まとめ
パッシブデザイン住宅とは、住宅を建てる場所の自然環境の特性を活かして、冷暖房機器をあまり使わなくても1年中心地よく過ごせるようにデザインされた住宅です。高気密・高断熱にしなければいけないため、初期コストが高くなりやすいというデメリットがあります。
しかし、光熱費を抑えられるため、長い目で見るとコストが抑えられるというメリットに繋がります。ただ高い技術力が必要になるため、どの住宅会社でも建てられるわけではありません。
札幌市近郊でパッシブデザイン住宅を建てたい方は、リビングワークへご相談ください。厚別区で30年の歴史を持つ工務店で、地域密着の家づくりを行っています。札幌の土地や気候などを考慮し、自然環境の特性を最大限活かした家づくりをサポートいたしますので、土地探しからお任せください。
また、高機能住宅にこだわり「長持ちする家」を実現します。さらに、性能だけでなく環境やデザインにもこだわった丁寧な家づくりを行っています。パッシブデザインで建てられた住宅の見学会も行っておりますので、ぜひ1度お気軽にご相談ください。